【書評】百田尚樹の新・相対性理論

百田さんの経歴は他の人気作家と比べると異色で、小説を書き始めたのは50歳ごろからと遅く、
それまではテレビの放送作家を本業としていました。

関西の超人気番組「探偵!ナイトスクープ」の台本を作っていたのが百田さんです。
(関東圏のテレビを観て過ごした自分には、馴染みがないのですが)

おもしろかった!

小説家としては、現代をリードするベストセラー作家の一人で、「永遠のゼロ」や「海賊とよばれた男」、日本国2000年の変遷を綴った「日本国紀」もベストセラーで話題になりました。
他にも面白い作品は多数あり、個人的には、「モンスター」という、ブスな女の子が整形によって絶世の美人に生まれ変わる様子を書いた作品がおもしろかったです。

※「永遠のゼロ」は、映画になり大ヒットもし、「モンスター」と「海賊とよばれた男」も映画化されています。

まさに、テレビ、小説、映画をヒットさせた、平成最大級のストーリーテラーですね。

さらには、言論人として、「日本国憲法」や「天皇」に関する著書もありますし、
twitterでは、ズバズバと持論を述べて著名人を批判したびたび炎上していますが、発信力が凄まじいという証でもあります(笑)。

いずれにしても、個人的に百田さんの風貌や「口が悪い大阪のおじさん」というキャラクターが馴染みやすいし、テンポがよくて読みやすく、飽きさせない文章も魅力です。

本書は、百田さんの著書のなかでははじめて「時間」をテーマに書いたものです。
世の中の成り立ちをすべて「時間」を基準に見ることで、自分をとりまく環境がシンプルに見えてきてわくわくするような内容でした。

すべては「時間」が基準

アインシュタインが発見した「相対性理論」は、絶対に不変なものは光の速度であって、
「時間」は伸びたり縮んだりするものだと理論的に説明したものですが、ものすごく難解です。
あまりに直感と反する理論なため、並の思考力で受け入れることは不可能です。

しかし、本書「新・相対性理論」は、「時間」についての百田さんが持論を語ったものです。
それは理論というより、人間が本能的に備えた「時間」への鋭敏な感覚を書き綴っており、直感的に理解ができる内容でした。

すべての道具は、「長生き」のために作られた

というのが百田さんの見解です。
古代の人たちは「時間の本質」というものを重々、理解していました。

なぜなら古代の人たちは、現代人にくらべはるかに短命で、常に「死の恐怖」と隣合わせで生活していたからです。
古代では、栄養状態が悪く、薬も治療法もろくになかったため、ちょっとした病気やケガが命取りになります。
傷口から破傷風菌が入れば三日と持たないし、風邪で死ぬこともあります。

朝元気だった人が、夜には死んでしまっている、ということが当たり前でした。

平均寿命が15歳などというデータもあるほどで、乳児期の死亡が平均値を押し下げているのですが、
それでも多くの人は40歳くらいまでに亡くなります。

物理的な長寿=「長生き」ではない

そこで、古代人たちは、より栄養価の高い食料を求めたり、仲間と協力する術を身につけるなどの工夫で物理的な寿命を延ばそうと努力をしますが、
死から逃れるためのより画期的な方法を見つけだします。

それは、「充実した時間を持つ」ことです。
また具体的にそれをかなえるための「道具の発明による時間短縮」です。

物理的に「長生き」ができない古代人は、生きるために行う苦しい時間(動物を仕留めるためにかかる時間や、火を起こす作業にかかる時間、等々)を短縮し、
家族や仲間たちと過ごす「楽しい時間」を増やすことができれば、それは「長生き」したことと同じことではないかと発見するのです。

素手で動物を仕留めていた時間は、棍棒を使うことで大幅に縮められましたし、
火を起こしに1時間かかっていたものが道具の発明で10分でできば、余った時間は自分の好きな「楽しい時間」に使えるというわけです。

確かに、私たちは、ただ長寿であれば幸せだとは思っていません。たとえば「牢獄で100年生きる人生」よりも「自由で楽しく50年生きる人生」を選ぶと思います。牢獄でつまらなく過ごす時間は、楽しく過ごす時間の半分の価値もないと、知っているのです。

ようするに、私たちは物理的な長生きよりも、「楽しい時間」を求めており、道具・発明品のすべてが「苦しい、つまらない時間の短縮」を解決してきました。
それは、道具ばかりではなく、言葉や文字やお金なども「面倒な時間を短縮する」ための便利な革命的な発明品のひとつといえます。

そのような行動は、人間の行動原理に深く刻み込まれているというわけです。

100年で世界はどうかわったか

100年前の寿命短い‥‥!

家電が一般家庭に行き渡る、私の祖母の時代くらいまで、女性たちは家事に忙殺されていました。
炊飯器も掃除機もない洗濯機もない時代では、火は自分で起こさないといけない(炭はあったでしょうが、ご飯を炊いたり、お茶をいれたり、料理、お風呂に入るのも大変です。)し、水は井戸から汲むし、洗濯は手洗いになります。
平均寿命が40代前半ですから、20歳くらいで子どもを産んだとして、子どもが独り立ちするまで育児と家事に忙殺されると、だいたい40歳くらいで身体もボロボロになっていました。

私たちは、100年前の人たちに比べ、便利な発明品に囲まれています。物理的な寿命についても、衛生環境の改善と医療の進歩によって約2倍になっています。

つまりは昔の人の何倍も、”長生き”=「楽しい時間」を過ごすことができるということです。

社会は、時間の「交換」によって成り立っている

人間社会は、時間の売買で成立していると言えます。たとえば、私たちが購入する商品やサービスは、すべて他人の「時間」を換えたものです。それに「お金」という交換手段のために値段がついているわけです。

肉や魚を買うということは、畜産業者や漁師、それを運搬する人、小売する人の時間を買っているということにもなりますし、レストランで食事をしたり、スポーツ観戦や音楽ライブ、寄席などを楽しむこともまさに、他人を時間を買っています。

なお、当然ではありますが、何千時間も費やして習得した優れた技術で作られる商品は価値が高くなりますし、誰にでもできるようなサービスは、価値が低くなります。
熟練の大工さんと交通整理の仕事とでは、時給が何倍も違ってきますよね。

そして多くの人が、それらサービスに支払うための「お金」を得るために、「自分の時間を他人に売って」います。つまり私たちは「お金」を媒体として「自分の時間」と「他人の時間」を交換しているというわけです。

「自分の時間」を他人に売る必要がない、働かずして生活できている大金持ちもいますが、
「他人の時間」を買うだけの人生が幸せなのかはわかりません。

大金を得た起業家が大富豪になってからも精力的に仕事を続けるのは、「お金」以上の価値を仕事に見出しているからでしょう。

しかし、逆に「自分の時間」を売るばかりで「他人の時間」を買うことのできない人生ほど悲しいものはないですね。

現代人が最も恐れるのは「退屈」である

ある日突然、テレビもスマホも故障し、本もなく、出かけるお金もなく、やることも思いつかず、友人も忙しかったら‥‥
人は軽いパニックに陥ります。
なぜなら「無駄に消える時間」と対峙することになるからです。

現代人は退屈を非常に恐れます。人は無意識に自分の時間を有効に使おうとしますが、何もしなくても「有限である時間が目減りしていく」ことを知っているからです。

娯楽の多くは人を「退屈」から救うために作られた

テレビやYoutubeは、「退屈な時間から逃れたい」という人間の心理をうまく利用しています。
そして、無料で視聴していると錯覚しがちですが、テレビやYoutubeを視聴していると、知らないうちに「他人の時間を買わされています」。

それは、広告費です。
テレビやYoutubeには、CMが入ります。CMによって企業から広告費として収益を得ることでテレビやYoutubeの無料視聴のシステムは成り立っています。

そして企業の広告費は私たちが普段購入する商品に含まれています。
つまり、テレビやYoutubeの視聴はただだけれど、普段購入している商品には、広告費が上乗せされているというわけですね。

感想

本書を読んで、いくつかの教訓を得ました。

・現代社会は「時間の交換」によって成り立っている
・商品を買っている=「他人の時間」を買っているということだ
・「自分の時間」を高く売れるように自分のスキルを高めるべき
・人間が最も恐れるのは「退屈」である
・「退屈」を埋めるためにテレビやYoutubeをはじめとした「娯楽」に浪費するのは愚かだ

「時間の浪費ほど大きな害はない」(ミケランジェロ)

「賢い人間は時間を無駄にすることに最もいらつく」(ダンテ)

「成功者のほとんどは他人が時間を浪費している間に先へ進む。私はこれを見てきた」(フォード)

「お前がいつか出会う禍は、お前がおろそかにしていたある時間の報いである」(ナポレオン・ボナパルト)

p206 本書の締めくくりから抜粋

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